ラウタヴァーラと「カントゥス・アルクティクス」について

2019年01月31日

作曲家ラウタヴァーラと今回当団が演奏する「カントゥス・アルクティクス」について、まだ馴染みの無い方が多いかもしれません。
少しでもご興味を持っていただければと思い、簡単にまとめました。
どうぞ御覧ください。


エイノユハニ・ラウタヴァーラ(Einojuhani Rautavaara) は1928年にヘルシンキ生まれた、フィンランド現代の作曲家です。
シベリウス以来、フィンランド最高の作曲家と評されています。

エイノユハニ・ラウタヴァーラ (1928-2016)
1950年の写真

彼は17歳でピアノを学び始め、ヘルシンキ大学に通う傍らシベリウス音楽院でアーッレ・メリカントに作曲を学びました。
当時の作品、金管楽器のための「我らの時代のレクイエム」が作曲コンクールで優勝し、国際的な注目を浴びるようになります。
これを受け、ジャン・シベリウスはラウタヴァーラにアメリカのジュリアード音楽院へ留学するための奨学金を与え、そこでヴィンセント・パーシケッティに師事。またタングルウッド音楽センターでもロジャー・セッションズやアーロン・コープランドに学んでいます。
アメリカ留学のあと、スイスやドイツでも学びフィンランドへ帰国。その後はヘルシンキを中心に活動します。シベリウス音楽院などで教鞭を執る傍ら、2016年に没するまで多くの作品を残しています。
その間、ウィフリ・シベリウス賞(フィンランドを本拠とする多国籍企業ウィフリが主宰する、世界で最も権威の有るクラシック音楽賞のひとつ。ヒンデミット・ショスタコーヴィチ・ストラヴィンスキー・メシアンなども受賞。)やフィンランド国家音楽賞を受賞するなど、フィンランド内外で高い評価を受けています。
彼の残した数多き作品群は、8曲の交響曲や14の協奏曲を中心としたオーケストラ作品。そのほか声楽曲、器楽曲、室内楽曲、オペラなど非常に多岐に及び、フィンランドだけではなく世界の現代音楽界に大きな影響を与えました。

彼の作風は19世紀末にシェーンベルクが確立した無調・十二音技法や不協和音を根本としているものの、それほど難解なものではなく、牧歌的なホルンの用法や自然の声を聴くような神秘的かつ清澄な表現は、むしろシベリウスから大きな影響を受けているものと考えられます。

今回演奏する「カントゥス・アルクティクス」はラウタヴァーラの作品の中でも特に知られているもので、演奏される機会が比較的多い作品です。
「カントゥス・アルクティクス」とはラテン語で「極北の歌」の意。副題として「鳥とオーケストラのための協奏曲」と添えられており、その名の通り作品形式は協奏曲のひとつに数えられえます。
この曲での独奏者は楽器でも人の声でも無く、録音された鳥の鳴き声。オーケストラの伴奏と共に、様々な鳥の鳴き声がソリストとしてホールに響き渡ります。
レスピーギの「ローマの松」でも同様の演出がありますが、この作品では楽章冒頭に鳥の声だけを一定時間流す指示が楽譜に記載されているなど、あくまで主役は鳥の声という位置づけです。
それらの鳥の声は、ラウタヴァーラがフィンランド中部の街オウル近郊・リミンカ(Liminka)の湿原において奏でられる「鳥たちの会話」を自ら録音し編集したものです。
鳥の声の不規則性とオーケストラによる模倣の対比、さらにそれらがひとつになって昇華するさまが、この曲の最大の魅力と言えます。「カントゥス・アルクティクス」は我々をコンサートホールの外側、極北に生きる鳥たちの世界へと誘います。

全曲は3つの楽章から成ります。

第1楽章:「湿原」
曲の冒頭、楽譜には「秋を想う。チャイコフスキーを想う。」と記されています。これは湿原を訪れたラウタヴァーラの心境なのでしょうか。さあ、オーケストラと鳥の声による語らいの始まりです。

第2楽章;「メランコリー(憂鬱)」
約1分間、鳥の声が続いたあと、シベリウスの「トゥオネラの白鳥」を想わせる旋律が美しくも物悲しく奏でられます。

第3楽章:「渡来・飛去する白鳥」
この楽章も冒頭は鳥の声のみで始まり、そこへ木管楽器が加わります。その後、弦楽器と金管楽器によって奏でられる白鳥の飛翔は、シベリウスの交響曲第5番終楽章へのオマージュとも思えます。

曲は1972年、オウル大学における最初の博士号授与式のために作曲され、スティーブン・ポートマンの指揮によって初演されました。

→第16回定期演奏会の詳細


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